2012年3月1日(木)
小樽の名建築紀行
1.日本銀行旧小樽支店
小樽駅から海岸へ向かって数分歩くと、「北のウォール街」と呼ばれるゾーンに出ます。ここに 日本銀行旧小樽支店があり、現在は金融資料館として一般開放されています。設計は辰野金吾(日本銀行本店や東京駅赤レンガで有名)と弟子の長野宇平治達で、明治45年(1912年)7月に完成しています。総工費は当時の金額で40万円と言うことで、日銀本店、日銀大阪支店に次いで3番目に高い建設費だったそうです。
北海道での日銀は、明治26年に本店直轄札幌出張所が開設され(ほかに、函館・根室出張所開設)、同時期に小樽派出所を札幌出張所に所属させて開設しています。小樽支店は2002年に閉鎖され、日銀札幌支店に統合されました。
雪景色の中の日本銀行旧小樽支店
2.旧北海道銀行本店
日本銀行小樽支店の斜向かいにあるのが旧北海道銀行本店で、現在は「小樽バイン」と言うワイン&レストランのお店として利用されています。旧北海道銀行本店と言っても現在の北海道銀行(道銀)ではなく、道銀ができる前にあった小樽の地銀で、昭和20年に北海道拓殖銀行に合併された銀行だそうです。
旧北海道銀行本店(現・小樽バイン)
3.日本郵船旧小樽支店
賑やかな街中から少し離れた海岸近くにあるのが、日本郵船旧小樽支店です(重要文化財指定)。館内に入ると、ボランティアガイドさんが案内してくれました。
日本郵船は、大型合併によりできた日本有数の海運会社です。明治維新後に岩崎弥太郎により設立された三菱商会が、巧みに政府に取り入り安定した収益源である郵便物の海運を行い、日本国からタダで船を借りることに成功します。社名を郵船汽船三菱会社へ変更し、これが今でも社名に残る“郵船”の由来です。その後は渋沢栄一により設立された共同運輸と激しく営業を競い、お互いにダンピング合戦を行います。両社ともに利益が出ずに疲弊し、明治18年(1885年)に争っていた両社の合併となり、日本郵船の誕生となります。
現在の日本郵船旧小樽支店は、明治39年に建替えられました。設計は工部大学校(今の東京大学工学部建築科)第一期生・佐立七次郎氏です(恩師はジョサイア・コンドル、同期は辰野金吾、片山東熊、曽彌達蔵等)。施工は地元の大工棟梁・山口岩吉。工費は当時のお金で6万円でした。
日本郵船旧小樽支店
建替えの契機となったのは明治36年の小樽港の大火事です。これで小樽の海沿い大半の建物が焼けてしまいました。建て替えた建物はとにかくどんな火事でも燃えないように、厚さ75cmの石を積み上げて作られました。ガラス戸にも防火用のシャッターが下りるようにとの鉄壁の守りです。
建物は2階建てですが、高さは10mあり1階・2階とも階高は5m以上ある立派なものです。1階は支店長室と営業事務所、金庫で構成されています。2階は来賓の応接室と会議室です。今も入社するのは難関の日本郵船ですが、当時の社員も帝国大学出身者ばかりだったそうです。
2階支店長応接室
樺太境界画定会議が行われた大会議室
ここで行われた有名な会議が、ロシア戦争の翌年に行われた樺太国境画定会議です。ロシアとの戦争に勝利した日本が、南樺太の権利を得て北緯50度までを日本国に併合しました。しかし北緯50度と決めただけで、現地ではどこからどこが国の線引きかはっきりしません。その国境を画定する会議を、ここ日本郵船小樽支店会議室で行ったのです。会議の参加者の名前が写真とともに掲載されていましたが、陸軍、海軍の大佐、中佐クラスの実務家が中心で、外務省の人間は出席していなかったようです。
日本郵船旧小樽支店は、国と一緒に発展して行った三菱の一端が垣間見える建物です。
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