2017年7月1日(土)
第一勧業信用組合の素晴らしい金融戦略
2017年6月に第一勧業信用組合の新田信行理事長の講演を聞きました。新田理事長はみずほ銀行常務から、2012年に第一勧業信用組合理事長に転出。不良債権比率が43億円の繰越損失を抱え存続の危機に陥っていた同信組を数年で高収益に転換させたやり手の経営者です。
信用組合(正確には信用協同組合)とは、中小企業等協同組合法第3条に規定された中小企業等協同組合の一つで、特定の組合員に対しての金融業務を営む組織です。株式会社とは違い非営利目的の組織であり、組合員が幸せになれる金融サービスを行うことが一番の存在目的です。戦後、日本国中で資金が足りず大企業への融資が中心だった時代に、お金を借りたくても借りられない人たちのためにできた金融機関とも言えます。
信用組合を大きく分けると地域、業域、職域と3形態に分かれ、ウィキペディアには下記のように書かれています。信用組合のピークは1960年代で、全国に542組合あったのが、現在は153組合まで減少しています。
・地域信用組合とは、一定地域内の小規模零細事業者や住民を組合員とする信用組合で、分類される信用組合では最も組織数が多い。朝銀信用組合、商銀信用組合といったいわゆる民族系の信用組合もこの地域組合に含まれる。
・業域信用組合とは、特定業種の関係者を組合員とする信用組合で、医師、青果卸、公衆浴場、出版・印刷業などの業種がある。
・職域信用組合とは、同じ職場に勤務する人たちを組合員とする信用組合で、官公庁(警察・消防署・地方自治体)、会社(新聞社)などの職場がある。
利益優先ではなく、組合員が幸せになることを最大の目的にした組織が信用組合、英語で言えばCredit Unionです。歴史的に言えば最も新しい金融形態で、米国、ドイツ、フランスといった先進国で発達しているそうです。アメリカのCredit Unionのスローガンは、「Not for profit、not for charity、but for service」。サービスとは、日本で使われているよりも広い概念で、「Vocational Service(天から与えられた奉仕)」、「相手を思いやり、相手のためになる行為をすること」であり、ロータリークラブの「奉仕の精神」に近い概念ということです。
本当に資金が必要な人に貸さない、創業時の出来立ての会社に実績(3期分の黒字決算書)や担保を要求する。このような銀行とは一線を画し、地域、組合員のために金融サービスを行うべき存在が信用組合なのです。この原点に立ち戻り、信用できる組合員への小口金融には無担保で融資をする。例え赤字でも経営者が優良な経営を行って信用できる人物であれば融資する。このようなやり方で第一勧組の経営を改善させたのが、新田理事長です。
新田理事長の講演が非常に素晴らしかったので、講演の概要をまとめてみました。
・信用組合とは、元々融資が受けにくかった業界や地域ごとに組合方式で設立された金融機関。株式会社の最大使命は利益の最大化だが、信用組合は利益を上げることが最大目的ではなく、組合員の人生に役立つことが最大の使命。信用組合は効率性よりももっと大切な価値観の中で事業を営んでいる。「人を見て、事業を見て与信判断を行う」という定性評価を活用することこそ、信組の真骨頂であるべき。
・東京23区の大半に支店を持っている信用組合は珍しい。第一勧業信用組合(以下、第一勧組)は組合員4万人で貸出金約2400億円は、信組ベスト10に入っている。元々、1963年に破綻した東京昼夜信用組合を第一勧業銀行が支援し、その後みずほ銀行系信用組合として存続。花街の料亭、飲食店舗等の顧客が多かった。
元々花街の料亭、飲食店と繋がりが強かった信用組合が母体であり、明治座の三田社長にも総代になってもらっている。佐渡が嶽部屋とも親しく、この縁で新規設立の相撲部屋も探してくれた。都内の花街6か所(芳町=日本橋人形町、新橋、赤坂、神楽坂、浅草、向島)の理事長さんには、全て当信組の総代になって貰っている。
・第一勧組の組合員の年金受給者だけで1万3000人いる。この人たちに地域応援ツアーを呼びかけるとあっという間に大勢の人が参加してくれる。先日も東日本大震災応援ツアーとしてバス20台を仕立て、いわきまで行ってきた。1000人近い人たちが参加してくれた。
・現在の基本経営方針は、決算書や担保で貸すという従来の方針を転換し、社長の経営方針、人柄を見て貸し出すことにしている。出来立ての創業企業に、過去数年の決算書を持ってこい、担保を入れろと言うこと自体がナンセンス。
・信用組合はSocial Capitalでなければならない。金融機関は未来志向で、開かれた人とコミュニティの金融でなければならない。人と人との信頼関係に基づく信用供与がベースであり、社会インフラの一部として社会に貢献する組合であるべき。
信用組合はオープンであるべき。すべて自分で完結する自前主義は取らない。社会インフラのワンパーツとして機能する必要がある。街づくりは金融機関だけではできないが、金融機関が無いとできないのも事実。信用組合は志ある人と繋がっていき、地域の発展を考えていかなければならない。
・地方創生を行うには地方単独では難しい。金融とは金を循環させること。現在日本には個人資産が約1700兆円ある。これが動いていないから豊かさを実感できていない。地方からどんどん東京に金が集まっているのが現状であり、東京でお金が眠っている。東京から地方にお金が回りだせば、地方がそして日本国中が元気になる。
・地方創生を行うには、東京と地方の信用組合が繋がれば良いと考えた。地方の信用組合に提携を申し入れ、1年ちょっとで18信組と提携ができた。また、遠隔地の自治体とも結びつくことができた。
最初に地方の信用組合に、「第一勧業信用組合は皆さんの東京支店になる。」と申し出た。信用組合同士がライバルと考えていた風潮もあったが、営業エリアが重ならない信用組合はお互いに補完できる関係にある。地方の信用組合が東京に店を出すことはコスト的に無理でも、第一勧組の店舗を自由に活用して貰えれば、実質的に東京支店として機能できると考えた。地方信用組合を東京の金融機関の支店と見ていたのが従来であり、それでは地方は発展しない。
・地方の物産品を東京の人が買えば、その分地方に金が流れ地方が潤う。第一勧組本店は、地方信組の東京支店として使ってもらう。第一勧組本店で物産品の販売や商談をしてもらっている。地方信組の職員の研修会などでも利用している。せっかく地方信用組合と提携できたので、第一勧組で産直定期預金という新商品を作った。この定期預金を作ってもらうと、地方物産品が景品として当たると言う商品。
・地方の信用組合対象にブランディングのセミナーも行った。これからは中小企業とは言え、十分な利益を出すためにはブランディングの確立が必要である。何を売りたいのか、何が一番の訴求力か、誰をターゲットに売りたいのか。これらのビジネスマッチングを提携した18信組で行っている。地方の一信組だけではできない試みも、多くの信組が協同・連携すれば有益な活動を行うことができる。
・提携している18信組のルートで、フェイス・トゥ・フェイスな地元情報が直ぐに取れる。調査したい会社のことを地元信組の営業担当者に電話で聞けば、社長さんの人物像、考え方、企業の本当の内容が直ぐに分かる。ネットなどの表面的な情報以上の内容を得られる。まさに地元に根付いているからこその信組の調査能力だ。
・当行の行員には、「とにかく地元のお祭りに参加しろ。」と言っている。目黒さんま祭りのリーダーも、第一勧業信用組合の総代さんが務めている。糸魚川信組の紹介でさんま祭りに参加してくれた糸魚川のお店が、イカ墨でできた焼きそばを一皿500円で売り出した。隣では一皿200円の焼きそばが売られていて高すぎないかと心配したが、イカ墨焼きそばはあっという間に完売してしまった。糸魚川の人たちも高くても売れるという自信になったはずだ。
人と人が繋がるから元気になれる。とにかく、地域と地域の人が繋がることが重要である。そのためにも、多くの行員に地元お祭りに積極的に参加してもらい、地域の人に繋がってもらいたいと考えている。新設した第一勧組の地域創生室は預金などを集めなくて良いと言ってある。とにかく街づくり、地域の活性化だけを考えろと命じている。
・農業ファンドも作った。当行で1.8億円の出資、公的資金で1.8億円の出資で合計3.6億円がエクイティ。直ぐには儲からないから、普通のファンドと違い15年の長期でファンド資金の回収を目指している。
・イチゴは寒い時期の商品だが山梨県の都留信用組合が、「夏イチゴ」を富士山麓で作ろうとしている。夏でも冷涼であり、イチゴが作れる環境にある。できた夏イチゴは、東京の信組が東京で売れるように応援をする。
秋田県信用組合北村理事長は、お会いしても貸し出しの話は全くしない。ひたすら地域再生の話ばかりする。秋田県で捕れたどじょうを東京のドジョウ店に売りに行くといった話ばかり。
笠岡信用組合は、瀬戸内の島々に船で預金を集めに行っている凄いバイタリティのある信組。提携した18信組はどこも特色がある。18信組の組合員合計は50万人を超えており、これがお互いに繋がりあうと凄い力になる。
・「地産都消」と言う言葉を提唱したが、最近はマスコミも結構使ってくれるようになってきた。地方で作られた商品を東京で売れるような仕組みを第一勧組が担う。都内でも同じ商品が売れる地域と売れない地域がある。
・老舗企業でも第二創業が大切。お父さんから継いだ若社長が必死に頑張っている会社がやはり伸びている。
・できたての創業会社は過去の決算書など何もない。当然担保もない。創業した社長の熱意のある話を聞いて、一緒にプランを練り資金を融通するようにしている。未来開発部の篠崎部長は昨年1年で創業支援200件手掛けた。
高齢者の持っている資金を若い人たちに回るように作ったのが、「勧信未来ファンド」。お金を持っている人に借りて貰おうとしているのが、残念ながらほとんどの金融機関。お金が本当に必要な所に貸し出すのが本当の金融の役目であるが、これを放棄してしまっている。
東京都の制度で、シニアや女性の起業者に創業資金を出す仕組みがある。この制度を使って、国民政策金融公庫とのコラボレーション融資を実現した。第一勧組が融資する金額と同額を公庫が融資してくれるようにした。
・アクセラレータープログラムとは、創業企業の成長を後押しする仕組み。会社の成長を加速する(アクセラレート)という役割に由来する。持続的成長を可能とするために、指導者(メンター)が会社の様々な問題の解決に協力する。アクセラレータープログラム自体を当行で手掛けたいと考えている。短期間で担当者が人事異動してしまう銀行にはできなくても、ずうっと地域に寄り添う信組ならできると考えている。
創業支援のためには、融資(間接金融)のほかに、出資(直接金融)が必要になる場合が圧倒的に多い。融資と出資を両輪で行うために、2015年11月に創業支援室を作り、すぐに「かんしん未来ファンド」を創設した。かんしん未来ファンドは、株式上場まで目指していない。大儲けを目指すファンドではない。創業してもらって経営が安定してきたら、経営者に出資金を買い取ってもらっても良いし、資本を借り入れに転換しても良い。
新田理事長は本当はみずほ銀行時代に、こういう金融を目指したかったのではないでしょうか。第一勧業信用組合理事長という天職に就任できて、本当に今幸せなのでしょう。今後一層活躍され、日本での信用組合の存在意義を大きく引き上げてくれるはずです。
追記 新田理事長が最近出した著書が「よみがえる金融 協同組織金融機関の未来」ダイヤモンド社1600円です。上記で上手く書けなかったことが分かりやすく、非常によく分かる良書です。タイトルは「蘇える金狼」を参考にしたかなという感はしますが。
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