2010年7月17日(土)
9-3 不良債権の買い方(値付け方法)
不良債権処理が本格的に始まった1998年。第1号案件は、その前年の東京三菱銀行のバルク案件でした。最初は、売るほうも、買うほうも初めての経験で、かなりのドタバタの中での作業だったと聞いています。売る銀行側(seller)には、大手会計事務所が付き、売り手側の債権評価を行いました。買手側(buyer)には、できたてのデューディリジェンス業者がつき、2週間から3週間で徹夜の調査業務を行いました。その後に行われた地銀の債権バルクなどでは、今から考えれば恐ろしく安い価格で落札されたこともあったようです。
不良債権評価は、担保に取っている不動産があるものと、担保が無いものに分けられます。前者が担保付債権で、後者が無担保債権(無担、業界用語でポンカス)です。担保付債権は、担保に取っている不動産がいくらで売れるかが最大のポイントです。無担保債権は、貸している相手方(債務者)が将来どの程度借りている金を返してくれるか、それにかかっています。無担保だからほとんど価値がないと、不良債権処理が始まったころは二足三文の評価で、債権残高が1億円あろうと、1件1万円とか5万円で売却されていました。その後無担でもかなりの人が真面目に弁済を続けたので、これは儲かると言うことになり、1件50万、100万円に価格が上がりました。
不良債権の投資家は、どのような値付けをするか、担保付債権の例で具体的な数字を入れて説明してみます。
・ 担保に取っている不動産は、純収益(NOI)で1,400万円ある。建物も築10年と新しいし、この場所ならCaprate7%でも売れるだろう。そうすると、NOI
1,400万円÷Caprate7%=2億円で売れる。
・ しかし、債務者サイドでは2億円で売却することに応じてくれない。銀行が外資に債権譲渡したことも怒っているし。任意売却(Volantary Sale)実現まで、2年間くらい見ておこう。
・ 売却コストは、仲介手数料のなど、全部で5%くらい見ておこう。
・ 自分達の投資のリターンは、年率15%稼がせてもらおうか。
これを基にいくらで買って良いかを計算すると、
将来価格 売却コスト 期待投資割引率 期間
( 2億円 - 1000万円)×(1 - 0.15 )の2乗=137,000千円
となります。すなわち、2億円で将来売れるとしても、137,000千円でしか買わないのです。
もう一つのシナリオとして、任意売却ができなければ、競売申請をしてできるだけ時間を掛けないで処理してしまおう、ということを考えます。上記の例で行くと
・ NOI1,400万円でも競売で買うのは、プロが多いからCaprateは8.0%くらいになってしまうだろう。従って、競売での入札価格は、
NOI1,400万円÷Caprate8.0%=175,000千円
・ 但し、今から競売申立して9ヶ月後には競売の期間入札が行われるだろう。債権者への配当は、およそ期間入札の3ヵ月後として、12ヶ月後には換金できる。
・ 競売申請の費用(予納金)で500万円くらいか。
・ 自分達の投資のリターンは、年率15%。
これを基にいくらで買って良いかを計算すると、
将来価格 売却コスト 期待投資割引率
( 175,000千円-500万円)×(1 - 0.15 )=144,500千円
上記例で行けば、競売シナリオの方が投資家としては高い評価を出すことができるのです。始めの2年間くらいは、買い手が強い時期でしたが、銀行側も強気の価格を出す投資家を入れて入札方式で売却するようになったため、投資家が望むような安い金額では中々買えなくなって行きました。
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