2010年8月24日(火)
4-2 建物構造と耐久性
現代建築物にコンクリートは欠かせませんが、コンクリートだけでは建物の構造が成り立ちません。コンクリートは、押す力には強くても引っ張られる力には弱く、地震などにより外力が引っ張る方向に加わるとコンクリートだけでは持ちこたえられません。そして、この引っ張られる力に対して強度を補強する代表が、鉄筋でありH型鉄骨です。一般的に建築構造物で使われる鉄筋は鉄筋の外径が16mm程度の小さなものでも、その引っ張り強度は約2トン(2000kg)(1センチ平方メートル当たり)と言われており、積載荷重に対する応力や地震が来たときの縦揺れ、横揺れ等の外力に対して威力を発揮しています。ちなみに鉄筋は引っ張っても容易には引きちぎられない粘り強さ、いわゆる靭性があります。
英語で言うと、鉄筋コンクリート造はReinforced Concrete つまり(鉄筋で)補強されたコンクリート(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造はSteal Reinforced Concrete 鉄骨材で補強されたコンクリート(SRC造)となります。コンクリートの強い点(圧縮力に強いところ)と鉄筋の引っ張り力に強いところのお互いの強い部分を併せ持つ工法なのです。また最近のSRC工法の中には、鉄骨の柱の中にコンクリートを流し込む工法も出てきています。この工法のメリットは、コンクリートが外気に触れないため、コンクリートの劣化が起こりづらいということです。
それぞれの工法には長所、短所がありますが、建物の種類や規模に応じて使い分けされます。構造的な合理性と経済性(コスト)を考慮して選択されるわけです。低層階のマンションであれば施工性の良さや工期、遮音性、コストを考慮してRC造を、柱と柱の間(スパン)を長くとりたい高層オフィスでは、同時に地震力や施工性も考慮してSRC造を採用する事が多いのはその一例です。
それではRC造、SRC造の建物の寿命はどれくらいでしょうか。コンクリート自体は、混入する水の量が少ないほど中性化(アルカリ性であるコンクリートが空中の二酸化炭素により中性化し劣化する事)が遅れるため長持ちします。コンクリートが正しく施工されている前提であれば、100年以上は持つと言えます。コンクリートの劣化が無いとすれば、中に入っている鉄筋、鉄骨がいつまで強度を保ち続けられるのか?すなわち鉄が錆びることがなければ、RC造の建物は大丈夫ということになります。
しかし、もし雨水がコンクリート表面から侵入し、一度鉄筋に触れ始めると「錆び」始める事になります。これは、ある意味、一時期話題になった「骨粗しょう症」の現象と似ており、鉄筋(骨)の錆化で劣化が始り、鉄筋の強みである引っ張り強度が減少して行きます。従って、ひび割れた壁があれば、場合によっては薬剤注入で隙間を充填したり、表面を保護膜や塗装で覆うなどしたりして対応を行う必要があります。
更に近年の雨水は酸性濃度が高くなっていると言われており、これはアルカリ性のコンクリートを炭性化させ強度を弱める速度を速める危険性があります。鉄筋はアルカリ性のコンクリートに保護されることで錆から守られてもおり、酸性雨の進入は一層錆び易さを助長してしまいます。
コンクリート中の鉄筋表面からコンクリート表面(=外気面)までの距離(厚み)を「かぶり厚」と言い、これを確保する事は上記の鉄筋の腐食防止の意味からも非常に重要な意味を持ちます。通常は3cmから4cmの厚さです。このかぶり厚が薄いと、コンクリートのひび割れを招きやすく、またひび割れ後の雨水がすぐ鉄筋に回りやすくなり、これが鉄筋の錆の原因となります。コンクリートの壁に赤茶けた錆の水垂れ跡が見られる建物がありますが、これは何らかの理由でコンクリート中に雨水等の外部からの水が回って鉄筋が錆びてしまっているのが原因です。その原因の一つが「かぶり厚」の不足による場合もあるでしょう。
そしてよりひどい状態になると、錆びた鉄筋が膨張しコンクリートを押し出し、コンクリート壁が割れてしまいます(鉄筋爆裂状態)。売り物件のビルでは特に、この様な観点からも出来る範囲でも、自ら目視検査を行い、コンクリート表面の状態を確認する事が大事です。もし一部でもコンクリート壁が割れているようであれば要注意で、専門家による検査が必要でしょう。
以上の理由からコンクリートのかぶり厚は大きいに越したことはありませんが、同時にかぶりが大きすぎると構造設計上の不利(同じ断面に収める鉄筋の数が減ってしまう)や施工性の難点(鉄筋組み立てや型枠立て込み時の施工性、又はコンクリートを流し込む際に充填しづらい点等)も生じてくるので、これらを考慮した上でのかぶり厚の最大化を目指す事がコンクリートの耐久性を高めることになります。
コンクリート構造物の強度を高め、耐久性を高める為には、コンクリート材料そのものの強度を高める方法(水の量や添加剤を工夫する)や補強材料を工夫する方法(上記の鉄筋、鉄骨以外にコンクリートの中に鋼線を混入し前もって引っ張って起き高い強度を確保するもの)、或いは成型したコンクリートに対して後から補強する方法など(高速架橋の柱補強の様に、コンクリートを鉄骨で巻いてしまう方法や、炭素材シートで覆ってしまう方法等)様々な対応があります。
建物の種類や規模、経年劣化の度合い、周囲の環境も含めた施工性、そしてコストの兼ね合いを考えて、これらの工法を選択する事になります。いずれにしても、今後は建物を計画する早い段階から建物のライフサイクルを考慮する事も重要です。初期コストのみならず、その建物に関わる維持管理費や最終的な解体も見越しての長期的なプランと事業収支を計算する事がポイントになってきています。
ちなみに、新築の建築において躯体の強度や耐久力の設計確認は大事な事は御理解頂けたと思いますが、同様に既存の建物の改修や増築に於いても躯体のチェックは非常に重要です。用途変更に伴う建築基準法等の法的な確認は勿論の事ですが、特に既存の床に新たな荷重負荷が及ぶ時や(新規の設備機器を設置する場合等)、既存の建物とジョイントする事により連続した建物を作る時はなおさらです。必要であれば専門業者に依頼して非破壊検査であるシュミットハンマーテストや既存のコンクリートのコア抜き(サンプル採取の破壊検査)による強度試験と確認が求められます。ここでも実績と経験のある建築業者や設計事務所、コンサルタントと充分に打ち合わせを行います。既存の建物の設計図面の確認を行えたとしても上述した様に、適正な施工がなされていない建物や、過去に風水害や地震を受けて部分的に損害を受けている事も考えられるからです。
*監修加筆を五洋建設㈱山田茂樹さんにお願いしました。
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