2015年5月5日(火)
銘酒屋 鳩の町
日経新聞の夕刊に、蟹工船作者の小林多喜二に関する記事が出ていました。
・小林多喜二がまだ小樽の銀行員だった時に知り合ったのが小料理店で酌婦として働いていた田口タキ。14歳で身売りされ、多喜二と知り合ったのは16歳の時。長命で2009年に102歳で死去した。小料理屋と言ったが実態は銘酒屋だった。客が望めば酌婦に売春をさせるような店だった。
小林多喜二に関する記事よりも「銘酒屋」と言うのが初耳で、何だろうこれはと気になりネットで調べてみました。“銘酒屋(めいしゅや)とは、銘酒を売ると言う看板を上げ、飲み屋を装いながら秘かに私娼を抱えて売春をした店。明治時代から大正時代、東京市を中心に見られた。”
なるほど、法の目を逃れて非合法で行っていた売春目的の飲み屋か。当時は管理された一定地域(警察公認で俗にいう赤線地帯)の中であれば、合法的に売春が行われていました。その一定地域に入れない業者が手っ取り早く売春を行うとすれば、こういう業態になったのか。多喜二のいた小樽まであったのですから、実態は全国津々浦々あったのかも知れません。
同じ目的を持ったお店で、江戸時代には神社や盛り場近くに「矢場」というのもあったそうです。矢場とは揚弓店で本来矢を射る遊び場ですが、ここで矢を拾ったり接客する矢場女(やばおんな)が売春を行っていた。明治に入ると、銘酒屋にその座を奪われていきました。
銘酒屋のような業態があまりはびこると風紀が乱れるということで、大正6年、7年に警視庁の撲滅方針が出され、ほとんどは消えたかに見えました。しかし表向きは造花屋、新聞縦覧所と名前を変え営業し、客があれば自由に他所に行って客を取っていたそうです。目的のためなら結構商売内容は自由だったんですね。
関東大震災後の復興に際して、浅草では銘酒屋の再建が許可されず、亀戸、玉ノ井では銘酒屋営業が警察黙認と言う形で認められました。両地域はそのお陰で人気歓楽街となります。その後太平洋戦争となり昭和20年の東京大空襲により玉ノ井が焼けると、玉ノ井の業者の一部が1kmほど離れた向島と東向島の間にある「鳩の町」に移って行きました。
戦後は玉ノ井も鳩の町も警察公認の赤線地帯となり、進駐軍米兵の慰安所となり、一時は米兵で賑わいました。しかし米兵に性病がうつることが多く、その後米兵の出入りは禁止されます。その後は日本人相手の特殊飲食店街として発展していきます。
鳩の町の商店街は警察の指導でカフェ風に作られました。昭和27年当時で娼家が108軒、接客する女性が298人いたそうです。女優の木の実ナナがこの地で生まれ育ったことが有名です。昭和33年の売春防止法で従来の営業ができなくなり、玉ノ井も鳩の町も普通の町に戻って行きます。
東京大空襲で鳩の町は焼けなかったので、鳩の町商店街は昭和初期のレトロな建物が少しだけ残っています。今ではもちろん娼家はありませんが、ほんの少しだけ発見できるカフェ風の建物が往時を偲ばせています(気に留めなければ見過ごしてしまいますが)。
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