2011年5月5日(木)

日本酒大吟醸で世界を制覇

都市鑑定アドバイザリー(株) 不動産鑑定士 田中祥司

 日本航空の広報誌AGORAの2011年4月号で、「日本酒世界を行く」という記事がありました。“国内では売上減少が続く日本酒が、海外では高級日本酒の「大吟醸」を中心として、海外進出が目覚ましい” という内容です。

 パリ、ニューヨークでは、和食に日本酒を飲むのは当たり前。そして次は、“フレンチと日本酒”という新しいマリアージュ(飲み物と料理の組み合わせが良いこと。特に、ワインと料理の組み合わせについていう。)という流れになっているのだそうです。

 パリの二つ星レストランの「ラ・ビラガード」。ここのシェフのクリストフ・ペレさんが料理に使うのが、ワインよりも大吟醸の日本酒と紹介されています。理由は単純、「珍しいからではなく、美味しくなるから。単純な理由です。」とのこと。

 ラ・ビラガードで使われている日本酒は、山口県岩国市の旭酒造の「獺祭(だっさい)」。日本酒ファンの間で、年々評判を上げているブランドです。旭酒造の桜井社長も「純米大吟醸は料理との掛け合わせが多様。すでにワインを通じて酒と料理のマリアージュを楽しむ文化を持つ欧米人には、十分アピールできると考えるようになった。今まで日本酒を上手くアピールできなかったのは、本当に美味しい日本酒をアピールできなかったからではないか。旨いものは誰にとっても旨いはずですから。」と、インタビューに答えています。

 もう一人記事で紹介されているのが、パリの2カ所で高級日本食材店「workshop ISSE」を経営する黒田利朗さん。同時通訳者でもある黒田さんは、美味しいものの趣味が高じてISSEの運営を始めました。黒田さんは自分の舌で選び抜いた日本酒蔵元とだけ取引をし、旭酒造もその一軒です。
http://www.workshop-isse.fr/acheter-en-ligne/
 黒田さんのお店で取り扱う食材の高さから、顧客の半数を星付きフレンチレストランの有名シェフやソムリエたちが占めているため、パリの料理関係者のサロン的存在になっています。そのフレンチ料理にも新しい変化が起きています。
・元々、塩と油脂分が美味しさの二大インフラだった。
・6年前くらいから時代を担う若い料理人が、限りなく無駄をそぎ落とし、酸味と甘味で味覚の構築を試みる動きが出てきた(素材の味を活かすということであれば、日本料理の技法に似ています)。
・日本酒にはワインにない旨味成分ペプチドが含まれており、ミネラル分もしっかり感じられる。この日本酒を使ったり、日本酒を食中酒として飲むことで、新しいフレンチ料理の旨さをより引き出すことができる。

 旭酒造の獺祭は、黒田さんのアドバイスでアルコール度数をワインと同程度の14度に抑えることで、ワイン好きのフランス人の味覚に合わせ、フランスでもファンが増え続けているそうです。世界的ソムリエからも、白トリュフとの獺祭のマリアージュが提案され話題になっています。獺祭は現在世界17か国に輸出をし、純米大吟醸部門では出荷量第一位となったそうです。

 そして、米国でも日本酒のプレゼンスは確実に上がっているようです。ニューヨークのカリスマシェフのデイビッド・ブーレイさんのインタビューでは
・日本酒は一時期、hot sakeとして良くない評判を獲得してしまった(不味い大手日本酒メーカーの酒が出回っていたのでしょう)。
・10年前の日本酒ブームの後に、良質な大吟醸が出回るようになり、日本酒について造詣を得た米国人も増えてきた。
・ウニやキャビアなどの海産物の前菜が、ミネラル分が日本酒と素晴らしい変化を起こす(ワインとは相性の悪い料理も、日本酒には合うものも多い)。
・日本酒の魅力を知った人は、ワインと同じように、暮らしの中に大吟醸日本酒を取り入れるようになってきている。

 酔うための酒ではなく、料理の味を惹きたてる酒として考えれば、日本酒は非常に優れています。ワインでは生臭くなってしまう料理が、旨い日本酒と飲めば美味しさが増します(美味しんぼの漫画でも主人公山岡士郎が、生ガキには絶対日本酒だと言っていました)。
 佐渡の北雪(ほくせつ)酒造も、米国で活躍している松久信行シェフの「NOBU」で「北雪大吟醸NOBU」を売りまくっています。NOBUは、俳優ロバート・デニーロ氏が松久氏と共同経営者になっている有名レストランです。
http://shop.sake-hokusetsu.com/?mode=f1

 旭酒造(獺祭ブランド)、北雪のように個別に世界で頑張っている蔵元があるのも確かです。ただ、世界中に美味しい純米吟醸酒を早く効率よく知ってもらうには、蔵元が集まって協力し合い、世界に広めていく戦略が必要だと思います。世界の隅々まで日本酒を売りに行き、ファンを増やす。そうすれば日本酒は、米どころの地方経済を救う起爆剤になるはずです。

参考データ
・2010年の日本酒出荷量589,779kl(対前年比▲6.9%)
・財務省の貿易統計(速報値)によると、2010年の日本酒の輸出は13,370万kl。金額ベースでは85億円と過去最高(ただ全体に占める割合は、約2.3%とごく僅か)。
・輸出先(数量ベース)は、1位が米国で3,705kl。2位が韓国で2,587kl。3位が台湾で1,639kl。それ以降は、香港、中国と続く。ヨーロッパは、まだ少量しか出荷されていない。
・一方で、日本酒販売事業者の悩みとなっているのが国内市場における苦戦状態。規模としてはピーク時の1995年度から約半分まで落ち込んでいる。日本酒造組合中央会は、「日本酒スクールの開催など、わたしたちも世界に向けて日本酒の情報を発信していきます」と語る。

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